退職給付に係る会計基準の設定に関する意見書

一 経緯

(平成10.6.16 企業会計審議会)
当審議会は、企業年金に係る会計基準について検討することとし、平成九年二月以降審議を行ってきた。当審議会では、昭和四十三年に個別意見書「退職給与引当金の設定について」(以下「個別意見書」という。)を公表しているが、今回の審議にあたっては、企業年金を含む従業員の退職給付全般について検討を行い、平成十年四月に「退職給付に係る会計基準の設定に関する意見書(公開草案)」を公表して、広く各界の意見を求めた。
当審議会は、寄せられた意見を参考にしつつ更に審議を行い、公開草案の内容を一部修正して、これを「退職給付に係る会計基準の設定に関する意見書」として公表することとした。


二 会計基準整備の必要性

我が国においては、多くの企業が厚生年金基金制度や適格退職年金制度に代表される外部に積み立てた資産を原資として退職給付を行う形態の制度(以下、「企業年金制度」という。)を採用している状況にある。このうち確定給付型の企業年金制度では、近年、積み立てた資産の運用利回りの低下、資産の含み損等により、将来の年金給付に必要な資産の確保に懸念が生じているといわれている。この将来の年金給付に必要な資金の不足は、企業の年金給付コストの増加により、財政状況を悪化させるおそれがあることから、企業年金に係る情報は、投資情報としても企業経営の観点からも極めて重要性が高まっているとの指摘が行われている。こうした指摘を踏まえ、企業年金等に係る会計基準を設定することにより、年金資産や年金負債の現状を速やかに明らかにするとともに、企業の負担する退職給付費用について適正な会計処理を行っていくことが必要である。また、今回設定する会計基準に基づく会計処理及びディスクロージャーについては、国際的にも適用する内容となるよう、これを整備していくことが必要である。


三 基本的考え方

退職給付とは、一定の期間にわたり労働を提供したこと等の事由に基づいて、退職以後に従業員に支給される給付をいい、退職一時金及び退職年金等がその典型である。個別意見書においては、退職給付のうち企業が直接給付を行う形態に関する会計基準は明らかにされているが、企業年金制度が我が国に導入されて間もなかったことから、企業年金制度に基づく退職給付の会計処理については明確な基準が示されなかった。その後、我が国企業においては、企業が直接給付を行う退職給付の一部を企業年金制度による給付に移行し両者を併用する場合が多くなったが、直接給付する部分については退職給与引当金による処理が行われる一方、企業年金制度については拠出金を支払時の費用として処理する実務が行われており、退職給付に関しての会計処理が区々となっている。しかし、退職給付の支給方法(一時金支給、年金支給)や退職給付の積立方法(内部引当、外部積立)が異なっているとしても、いずれも退職給付であることに違いはない。このような観点から、当審議会では、企業年金制度を含め退職給付について包括的に検討を行った。
個別意見書は、退職給付の性格に関して、賃金後払説、功績報償説、生活保障説といったいくつかの考え方を示しつつ、「企業会計においては、退職給付は基本的に労働協約等に基づいて従業員が提供した労働の対価として支払われる賃金の後払いである」という考え方に立っている。退職給付の性格については、社会経済環境の変化等により実態上は様々な捉え方があるが、今般の会計基準の検討にあたっては、退職給付は基本的に勤務期間を通じた労働の提供に伴って発生するものと捉えることとした。このような捉え方に立てば、退職給付は、その発生が当期以前の事象に起因する将来の特定の費用的支出であり、「当期の負担に属すべき退職金の金額は、その支出の事実に基づくことなく、その支出の原因又は効果の期間帰属に基づいて費用として認識する」との企業会計における従来の考え方は、企業年金制度による退職給付についても同じく当てはまると考えられる。したがって、退職給付はその発生した期間に費用として認識することが必要である。なお、役員の退職慰労金については、労働の対価との関係が必ずしも明確でないことから、本基準が直接対象とするものではない。
企業年金制度を採用している場合の取扱いについては以下のとおりとした。
(1) 本基準では、確定給付型の企業年金制度を前提とした会計処理を示した。なお、厚生年金基金制度のように、給付水準や財政計算が異なる部分(加算部分及び代行部分)から構成されている制度や従業員からの拠出部分がある制度があるが、これらについては次のような考え方を採ることとした。

@ このような制度における資産及び給付負担はそれぞれの部分から構成されることから、それぞれを区別して計算するとの考え方もある。しかし、実態としては、一つの運営主体によって、資産が一体として運用され一括して給付が行われており、区分計算することが難しいこと、母体企業が制度の運営及び維持に実質的に関与しており、過去勤務債務等が発生したときには、通常、金額を母体企業が負担している場合が多いことなどから、企業会計においては、それぞれの部分を区分せずこれを全体として一つの退職給付制度とみなして、財政計算上の計算方法にかかわらず同一の会計処理を適用することとした。
A このような会計上の考え方においては、従業員拠出部分にかかる退職給付債務は従業員からの拠出額とみなして会計上の計算を行う。したがって、母体企業は従業員拠出部分も含め全体として退職給付債務及び退職給付費用の計算を行い、この退職給付費用から従業員拠出額を控除した額が母体企業が認識すべき退職給付費用となる。

(2) 一方、中小企業退職金共済制度を採用している企業や確定拠出型の企業年金制度を採用している在外子会社もある。本基準では、このような、将来の退職給付について拠出以後に追加的な負担が生じない外部拠出型の制度に関する会計処理は示していないが、基本的には、当該制度に基づく要拠出額をもって費用処理することが適当であると考えられる。



四 会計基準の要点と考え方

会計基準の基本的考え方
退職給付に係る会計処理については、将来の退職給付のうち当期の負担に属する額を当期の費用として引当金に繰り入れ、当該引当金の残高を貸借対照表の負債の部に計上することが、企業会計原則に基づく基本的な会計処理の考え方である。このような基本的処理に加え、退職給付に係る会計処理に特有の事象について次のような考え方を採用することとした。
(1) 企業年金制度に基づく退職給付においては、負債の計上にあたって外部に積み立てられた年金資産を差し引くとともに、年金資産の運用により生じると期待される収益を、退職給付費用の計算において差し引くこと
(2) 退職給付の水準の改訂及び退職給付の見積りの基礎となる計算要素の変更等により過去勤務債務及び数理計算上の差異が生じるが、これらは、原則として、負債の計上にあたって差し引くとともに、一定の期間にわたり規則的に費用として処理すること


退職給付費用の処理に関する基本的考え方
将来の退職給付のうち当期の負担に属する金額の計算方法としては、退職時に見込まれる退職給付の総額について合理的な方法により各期の発生額を見積り、これを一定の割引率及び予想される退職時から現在までの期間に基づき現在価値額に割り引く方法を採用することとした。この方法においては、割引率等の計算基礎が会計数値の計算上重要な要素となることから、計算基礎を合理的に決定することが必要である。
(1) 退職時に見込まれる退職給付の総額
実際の退職給付の支払いは退職時における退職給付の額に基づいて行われるものであり、現在時点の退職給付の支払額のみに基づいて将来の退職給付の額を見積もることは、退職給付の実態が適切に反映していないと考えられる。したがって、退職時に見込まれる退職給付の額は、退職時までに合理的に見込まれる退職給付の変動要因を考慮して見積もることとした。
(2) 各期の発生額の見積り
各期の退職給付の発生額を見積る方法としては、勤務期間を基準とする方法、全勤務期間における給与総支給額に対する各期の給与額の割合を基準とする方法、退職給付の支給倍率を基準とする方法等が考えられる。このような考え方の中で、労働の対価として退職給付の発生額を見積る観点からは、勤務時間を基準とする方法が国際的にも合理的で簡便な方法であると考えられている。したがって、我が国においても、この方法を原則とすることとした。なお、我が国では、一般に全勤務期間の給与額を体系的に定めている場合が多く、退職給付の算定基礎となる各期の給与額に各期の労働の対価が合理的に反映されていると認められる場合が多いと考えられるため、このような企業については、全勤務期間における給与総支給額に対する各期の給与額の割合を基準とする方法を用いることが認められる。一方、退職給付の支給倍率は一定の勤務期間を経て急増することが一般的であり、労働の対価性よりも勤続に対する報償的側面を反映していると考えられるため、支給倍率の増加が各期の労働の対価を合理的に反映していると認められる場合を除き、支給倍率を基準とする方法を用いることは適当でない。
(3) 現価方式の採用
退職給付は支出までに相当の期間があることから、退職給付債務及び退職給付費用の計算方法としては、一定の割引率及び予想される退職時から現在までの期間に基づき現在価値額に割り引く現価方式がある。この現価方式は、個別意見書においても認められており、現在の退職給与引当金の計算においても慣行として広く利用されている。また、企業年金制度においても、一般に割引現在価値の考え方を財政計算に用いていることにかんがみ、退職給付費用の計算は現価方式を原則とすることとした。
(4) 退職給付費用の構成
現価方式に基づく退職給付にかかる費用は、基本的に次の要素から構成される。

@ 勤務費用の額
一期間の労働の対価として発生したと認められる退職給付について割引計算により測定される額
A 利息費用の額
割引計算により算定された期首時点における退職給付債務について、時の経過により発生する計算上の利息の額
これらに加え、退職給付の見積計算に係る特有の費用として次の要素がある。
B 期待運用収益の額
企業年金制度における年金資産の運用により生じると期待される収益で、退職給付費用の計算において控除され
る額
C 過去勤務債務のうち費用として処理した額
退職給付の給付水準の改訂等により従前の給付水準に基づく計算との差異として発生する過去勤務債務のうち、
費用として処理した額
D 数理計算上の差異のうち費用として処理した額
年金資産の期待運用収益と実際の運用成果との差異、退職給付債務の数理計算に用いた見積数値と実績との差異
及び見積数値の変更等により発生した差異のうち、費用として処理した額


過去勤務債務及び数理計算上の差異の処理
過去勤務債務及び数理計算上の差異については、その発生した時点において費用とする考え方があるが、諸外国では一時の費用とはせず一定の期間にわたって一部ずつ費用とする、又は、数理計算上の差異については一定の範囲内は認識しないという処理(回廊アプローチ)が行われている。
こうした会計処理については、過去勤務債務の発生要因である給付水準の改訂等が従業員の勤労意欲が将来にわたって向上するとの期待のもとに行われる面があること、また、数理計算上の差異には予測と実績の乖離のみならず予測数値の修正も反映されることから各期に生じる差異を直ちに費用として計上することが退職給付に係る債務の状態を忠実に表現するとは言えない面があること等の考え方が示されている。このように、過去勤務債務や数理計算上の差異の性格を一時の費用とすべきものとして一義的に決定づけることは難しいと考えられる。
また、数理計算上の差異の取扱いについては、退職給付債務の数値を毎期末時点において厳密に計算し、その結果生じた計算差異に一定の許容範囲(回廊)を設ける方法と、基礎率等の計算基礎に重要な変動が生じない場合には計算基礎を変更しない等計算基礎の決定にあたって合理的な範囲で重要性による判断を認める方法(重要性基準)が考えられる。本基準では、退職給付債務が長期的な見積計算であることから、このような重要性による判断を認めることが適切と考えられるため、数理計算上の差異の取扱いについては、重要性基準の考え方によることとした。また、計算基礎にこのような重要性による判断を認めた上で回廊を設けることとする場合、実質的な許容範囲の幅が極めて大きくなることから、重要性基準に加えてさらに回廊を設けることとはしないこととした。なお、基礎率等の計算基礎に重要な変動が生じた場合において計算基礎の見直しを行ったときなどに生じる数理計算上の差異について、過去勤務債務と同じく、平均残存勤務期間以内の一定の年数で規則的に処理することとし、未認識の過去勤務債務及び数理計算上の差異は貸借対照表に計上しないこととした。この場合、一定の年数での規則的処理には、発生した期に全額を処理する方法を継続して採用することも含まれる。


年金資産
企業年金制度を採用している企業には、退職給付に充てるため外部に積み立てられている年金資産が存在する。この年金資産は退職給付の支払いのためのみに使用されることが制度的に担保されていることから、これを収益獲得のために保有する一般の資産と同様に企業の貸借対照表に計上することには問題があり、かえって、財務諸表の利用者に誤解を与えるおそれがあると考えられる。
また諸外国の基準においても年金資産を貸借対照表に計上せず、年金給付に係る債務の計算においてこれを控除することが一般的である。したがって、年金資産の額を公正な評価額により測定し、当該金額は退職給付に係る負債の計上額の計算にあたって差し引くこととした。この場合、財政計算による掛金の拠出額と会計上の退職給付費用の額とが異なるときに、会計上の退職給付費用を超えて拠出された掛金に相当する部分は、経過的に前払年金費用として貸借対照表に計上することとした。
ただし、企業年金制度に基づいて積み立てられた資産以外の資産については、退職給付の原資とすることを意図している場合であっても、これを退職給付債務から控除することはできない。なお、企業年金制度に基づいて積み立てられた年金資産の実際運用収益が期待運用収益を超過したときや給付水準の引下げにより退職給付債務が減少したときに、年金資産が当該企業年金制度に係る退職給付債務を超過することも考えられる。この場合において、その金額を退職給付債務から控除するときは、当該超過額を実質的に資産処理することにつながることになるが、外部に積み立てられている年金資産を企業の資産として認識することは適当でない。
したがって、当該超過額は退職給付債務から控除できないこととした。また、当該超過額が将来退職給付費用の減少につながるとしても、一般的に年金資産の払戻しには制限があることから、企業への当該超過額の払戻しが行われない限り、これを利益として認識することはできないこととした。一方、給付水準の引下げ等により内部引当に係る退職給付債務が減少する場合は、過去勤務債務及び数理計算上の差異の処理年数に従って費用の減額(費用を超える場合には退職給付引当金の戻入益)として処理することが適当と考えられる。


小規模企業等における簡便法の採用
従業員数が比較的少ない小規模な企業などにあっては、合理的に数理計算上の見積りを行うことが困難である場合や退職給付の重要性が乏しい場合が考えられる。このような場合には、期末の退職給付の要支給額を用いた見積計算を行う等簡便な方法を用いて退職給付費用を計算することも認められると考えられる。


表示
本基準では、企業から直接給付される退職給付と企業年金制度から給付される退職給付について包括的に処理することとしていることから、貸借対照表における退職給付に係る負債の計上は、従来の退職給与引当金の科目に代えて、原則として退職給付引当金の科目をもって表示することとした。
また、新たな退職給付制度の採用又は給付水準の重要な改訂により発生する過去勤務債務を発生時に全額費用処理する場合などにおいて、その金額に重要性があると認められる場合には、これを特別損失として表示することも認められる。


注記
本基準では退職給付に係る包括的な会計処理方法を示したことに対応し、財務諸表の有用性をさらに高める観点から、次の事項についてわかりやすい注記を行うことが必要である。
 (1) 企業の採用する退職給付制度に関する説明
 (2) 退職給付債務及び退職給付費用の内訳
 (3) 退職給付債務等の計算基礎


五 実施時期等

本基準は、平成十二年四月一日以後開始される事業年度から実施されるよう措置することが適当である。なお、企業年金に関する数理計算実施上の関係者の環境整備の状況から、平成十二年四月一日以後開始される事業年度から直ちに本基準に基づく会計処理を適用することが困難であると認められる会社については、平成十三年四月一日以後開始される事業年度から本基準に基づく会計処理を適用することとし、平成十二年四月一日以後開始される事業年度においては、本基準に基づく退職給付債務及びその内訳等主要な事項について注記を行うこととするよう措置することが適当である。
会計基準の変更により、従来の処理と継続した処理を行うことができず会計数値の連続性が保てない場合がある。特に、新たな基準の採用により、従来合理的とされた処理により長期間にわたり累積された影響が一時点に発現することが予想される。したがって、この影響をすべて一時に処理することは、企業の経営成績に関する期間比較を損ない期間損益を歪めるおそれがある。そこで、新たな基準の採用により生じる影響額は、通常の会計処理とは区分して、十五年以内の一定の年数の按分額を当該年数にわたって費用として処理することができるよう経過的な措置を置くことが適当である。
本基準を実務に適用する場合の具体的指針については、次の事項を含め、今後、日本公認会計士協会が関係者と協議のうえ適切に措置していくことが適当である。
 (1) 数理計算において用いる予測数値
 (2) 退職給付債務及び年金資産等の計算方法
 (3) 過去勤務債務、数理計算上の差異に係る計算方法
 (4) 複数事業主制度に係る計算方法
 (5) 小規模企業等における簡便法




退職給付に係る会計基準


定義
退職給付債務とは、一定の期間にわたり労働を提供したこと等に事由に基づいて、退職以後の従業員に支給される給付(以下「退職給付」という。)のうち認識時点までに発生していると認められるものをいい、割引計算により測定される。
年金資金とは、企業年金制度に基づく退職給付に充てるため積み立てられている資産をいう。
勤務費用とは、一期間の労働の対価として発生したと認められる退職給付をいい、割引計算により測定される。
利息費用とは、割引計算により算定された期首時点における退職給付債務について、期末までの時の経過により発生する計算上の利息をいう。
過去勤務債務とは、退職給付水準の改訂等に起因して発生した退職給付債務の増加又は減少部分をいう。なお、このうち費用処理(費用の減額処理又は費用を超過して減額した場合の利益処理を含む。以下同じ。)されていないものを未認識過去勤務債務という。
数理計算上の差異とは、年金資産の期待運用収益と実際の運用成果との差異、退職給付債務の数理計算に用いた見積数値と実績との差異及び見積数値の変更等により発生した差異をいう。なお、このうち費用処理されていないものを未認識数理計算上の差異という。


負債の計上
負債の計上額
退職給付債務に未認識過去勤務債務及び未認識数理計算上の差異を加減した額から年金資産の額を控除した額を退職給付に係る負債として計上する。ただし、年金資産については、その額が企業年金制度に係る退職給付債務に当該企業年金制度に係る未認識過去勤務債務及び未認識数理計算上の差異を加減した額を超える場合には、当該超過額を退職給付債務から控除することはできないものとし、前払年金費用として処理するものとする。(注1)
退職給付債務の計算
(1) 退職給付債務は、退職時に見込まれる退職給付の総額(以下「退職給付見込額」という。)のうち、期末までに発生していると認められる額を一定の割引率及び予想される退職時から現在までの期間(以下「残存勤務期間」という。)に基づき割り引いて計算する。(注2)
(2) 退職給付見込額は、合理的に見込まれる退職給付の変動要因を考慮して見積らなければならない。(注3)(注4)
(3) 退職給付見込額のうち当期までに発生したと認められる額は、退職給付見込額について全勤務期間で除した額を各期の発生額とする方法その他従業員の労働の対価を合理的に反映する方法を用いて計算しなければならない。(注5)
(4) 退職給付債務の計算における割引率は、安全性の高い長期の債券の利回りを基礎として決定しなければならない。
(注6)


退職給付費用の処理
退職給付費用の処理額
当期の勤務費用及び利息費用は退職給付費用として処理し、企業年金制度を採用している場合には、年金資産に係る当期の期待運用収益相当額を差し引くものとする。なお、過去勤務債務及び数理計算上の差異に係る費用処理額は退職給付費用に含まれるものとする。(注7)
退職給付費用の計算
(1) 勤務費用は、退職給付見込額のうち当期に発生したと認められる額を一定の割引率及び残存勤務期間に基づき割り引いて計算する。(注8)
(2) 利息費用は、期首の退職給付債務に割引率を乗じて計算する。
(3) 期待運用収益相当額は、期首の年金資産の額について合理的に予測される収益率(以下「期待運用収益率」という。)を乗じて計算する。
(4) 過去勤務債務及び数理計算上の差異は、原則として、各期の発生額について平均残存勤務期間以内の一定の年数で按分した額を毎期費用処理しなければならない。(注1)(注9)(注10)(注11)


貸借対照表及び損益計算書の表示
貸借対照表において退職給付に係る負債を計上するにあたっては、当該負債は原則として退職給付引当金の科目をもって計上する。
新たに退職給付制度を採用したとき又は給付水準の重要な改訂を行ったときに発生する過去勤務債務に係る当期の費用処理額が重要であると認められる場合には、当該費用処理額を特別損失として計上することができる。



複数事業主制度の企業年金の取扱い
複数の事業主により設立された企業年金制度を採用している場合においては、退職給付債務の比率その他合理的な基準により自社の負担に属する年金資産等の計算を行うこととする。(注12)


注記事項
退職給付に係る次の事項について注記しなければならない。
企業の採用する退職給付制度
退職給付債務等の内容
(1) 退職給付債務及びその内訳
 @ 退職給付債務
 A 年金資産
 B 前払年金費用
 C 退職給付引当金
 D 未認識過去勤務債務
 E 未認識数理計算上の差異
 F その他(会計基準変更時差異の未処理額)
(2) 退職給付費用の内訳
 @ 勤務費用
 A 利息費用
 B 期待運用収益
 C 過去勤務債務の費用処理額
 D 数理計算上の差異の費用処理額
 E その他(会計基準変更時差異の費用処理額、臨時に支払った割増退職金等)
(3) 退職給付債務等の計算基礎
 @ 割引率、期待運用収益率
 A 退職給付見込額の期間配分方法
 B 過去勤務債務の処理年数
 C 数理計算上の差異の処理年数
 D その他(会計基準変更時差異の処理年数、実際運用収益等)







退職給付に係る会計基準注解


(注1)年金資産が企業年金制度に係る退職給付債務を超える場合の処理について
実際運用収益が期待運用収益を超過したこと等による数理計算上の差異の発生又は給付水準を引き下げたことによる過去勤務債務の発生により、年金資産が企業年金制度に係る退職給付債務を超えることとなった場合には、当該超過額を資産及び利益として認識してはならない。
複数の退職給付制度を採用している場合において、一の企業年金制度に係る年金資産が当該企業年金制度に係る退職給付債務を超えるときは、当該年金資産の超過額を他の退職給付制度に係る退職給付債務から控除してはならない。
(注2)退職給付債務の計算について
退職給付債務は、原則として個々の従業員ごとに計算する。ただし、勤続年数、残存勤務期間、退職給付見込額等について標準的な数値を用いて加重平均等により合理的な計算ができると認められる場合には、当該合理的な計算方法を用いることができる。
(注3)退職給付見込額の見積りにおける退職給付の変動要因について
退職給付見込額の見積りにおいて合理的に見込まれる退職給付の変動要因には確実に見込まれる昇給等が含まれるものとする。また、臨時に支給される退職給付等であって予め予測できないものは、退職給付見込額に含めないものとする。
(注4)年金により支給される退職給付について
年金により支給される退職給付に係る退職給付見込額は、現役従業員については退職時点の給付現価額により計算し、退職従業員については、期末時点の給付現価額により計算する。
(注5)従業員の労働の対価を合理的に反映する方法について
従業員の労働の対価を合理的に反映する方法としては、全勤務期間における給与総支給額に対する各期の給与額の割合に基づき退職給付見込額の各期の発生額を計算する方法が含まれる。
(注6)安全性の高い長期の債券について
割引率の基礎とする安全性の高い長期の債券の利回りとは、長期の国債、政府機関債及び優良社債の利回りを言う。なお、割引率は、一定期間の債券の利回りの変動を考慮して決定することができる。
(注7)退職給付費用の処理について
臨時に支給される退職給付であって予め予測できないもの及び退職給付引当金を超える退職給付の支給については、支払時の退職給付費用として処理することとする。
(注8)勤務費用について
従業員からの拠出がある企業年金制度を採用している場合には、勤務費用の計算にあたり、従業員からの拠出額を勤務費用から差し引くものとする。
(注9)過去勤務債務及び数理計算上の差異の費用処理について
過去勤務債務及び数理計算上の差異の費用処理については、未認識過去勤務債務及び未認識数理計算上の差異の残高の一定割合を費用処理する方法によることができる。この場合の一定割合は、過去勤務債務及び数理計算上の差異の発生額が平均残存勤務期間以内に概ね費用処理される割合としなければならない。
数理計算上の差異の発生額については、当期の発生額を翌期から費用処理する方法を用いることができる。
(注10)基礎率の見直しについて
割引率等の基礎率に重要な変動が生じていいない場合には、これを見直さないことができる。
(注11)退職従業員に係る過去勤務債務について
退職従業員に係る過去勤務債務は、他の過去勤務債務と区分して発生時に全額を費用処理することができる。
(注12)複数事業主制度の企業年金について
総合設立の厚生年金基金を採用している場合のように、自社の拠出に対応する年金資金の額を合理的に計算することができないときには、当該年金基金への要拠出額を退職給付費用として処理する。この場合においては、掛金拠出割合等により計算した年金資金の額を注記するものとする。